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「ウェブ炎上」を中立的にとらえた先に、希望を見出す

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

荻上チキ「ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性」を読みました。2007年に出版された本ですが、内容は古くなっていません。荻上チキさんは、批評家・ブロガーで、TBSラジオ「Session22」のキャスターとして活動しています。

ウェブ・SNSを使っている人で、炎上という言葉を聞いたことがない人がいないのではないでしょうか。例えば最近では、「インターネットで死ぬということ 1度の炎上で折れた心 北条かや」という記事で北条かやさんが炎上について語っています。

ウェブ炎上」は、「炎上は良くないものである」「ウェブはこういう方向に向かう」と言った価値判断をする前に、炎上の「仕組み」を具体例から読み解こうという方向性の本で、その内容に共感したので紹介しますね。

 

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)
荻上 チキ
筑摩書房
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炎上を中立的に捉える「サイバーカスケード」

今ではとある事柄がウェブ上で爆発的に話題になることは「炎上」として捉えられていて、それにはネガティブなイメージがつきまといます。

しかし、2000年代は炎上のみがその現象を呼び表す言葉ではありませんでした。ブログへのコメントが押し寄せる「コメントスクラム」、にちゃんねるの人が一箇所のスレッドに集まって盛り上がる「祭り」といった言葉がありました。「電車男」はスレに応援しようと思った人が集まったもので、炎上と呼び表すのにはふさわしくありません。

そこで、炎上という現象を中立的に捉えるために、著者は「サイバーカスケード」という概念を引っ張ってきます。

サイバーカスケード(cyber cascade)は、アメリカの憲法学者キャス・サンスティーンが「インターネットは民主主義の敵か」の中で提唱した概念で、ウェブ上で各ユーザーが思うがままに行動した結果、特定の行動パターンへ滝のように流れこんでいく現象を指しています。

カスケード(cascade)とは、もともとは「小さな滝」を意味する言葉です。つまり、多くの水滴やせせらぎがより低いところを目指して流れていった結果、滝のように一箇所へと勢いよくなだれ込んでいく現象をイメージしていただければわかりやすいでしょう。また、多くの水が流れることで滝ができ、滝ができることでさらに多くの水がそこに向かって流れていくというように、カスケードによってさらなるカスケードが引き起こされるというイメージも重要です。

サイバーカスケードは、さまざまな規模、さまざまな形で、毎日のようにウェブじょうに現れては消えていきます。例えば特定のBBSやブログのコメント欄などに大量のコメントが寄せられる、集団で特定のターゲットの情報を収集する、特定の企業について集団で議論を展開する、特定の商品を集団で購入する、特定のコンテンツに集団でアクセスして盛り上がる、特定の対象に対する振る舞いが周囲に感染していく、特定のトピックスに対する言及が激増する……。このように、実にさまざまなケースが挙げられます。

引用:ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性

「集団の行動がさらなる集団を引き起こす」というのは、特によく見かける現象ですね。

ウェブを見ていると、「行列のできているお店に並びたくなる」のと同じ心理になりやすいです。

この文章の冒頭でも北条かやさんの記事を引っ張ってきましたが、話題になっているからTwitterで発見して読んでみたし、さらにこの文章で言及することによって拡散に貢献しています。

 

ウェブ上でより豊かな議論をするために

ウェブ炎上」は、具体例を緻密に紹介しながら、「エコーチェンバー、集団分極化、アーキテクチャ」といった概念を交えて、分析していきます。それもこれも、「ウェブ上で豊かな議論をする」という希望のためになされているんですよね。そこが良い。

参考:ウェブを観察すると隠れた「アーキテクチャの生態系」が見えてくる

それも、できるだけ冷静な観点から、ウェブ炎上に切り込むスタイルが好きです。あとがきから引用。

筆者はどのようなトピックスであれ、何か強引な判断を下す前に、判断材料をしっかり集めてから議論したいと考えています。何が変化して、何が変わらないのか。何がウェブの性質で、何がそうではないのか。ウェブを豊かな議論の土壌にしたいという願いには、どのような手段が望ましいのか。せっかく手に入れた、インターネットという便利なツール自体を「炎上」させてしまわないように、本書が少なからぬ判断材料を提示できているといいのですが。みなさまの判断を仰ぎたいと思います。

引用:ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性

僕の場合、そもそもウェブを「議論する場所」としてふさわしいとは思っていませんが、それでも起こる議論はできるだけ良いものであればいいなと思います。せっかく時間を使うなら、不毛な議論にならない方がいい。「文脈ゆるゼミ」はその試みの一つです。

 

インターネットを楽しんでいると、どうしても炎上という形でウェブの負の面が見えてきてしまうんですよね。僕がニコニコ動画で好きな「例のアレ」カテゴリは、必ず何かしらの炎上が絡んでいます。

最近だと、「クッキー☆」というボイスドラマの一人物である匿名声優が、顔写真を特定されてしまっていました。

参考:クッキー☆と真夏の夜の淫夢 僕と東方Projectとの出会いその5

Youtuber「aiueo700」さんは、近隣の住民を集団ストーカーと断定して迷惑をかけながらも、今では逆にリアル集団ストーカーに追いかけられています。

参考:統合失調症患者と思われる動画投稿者「aiueo700」さんの思い込みであった集団ストーカーが現実化した。精神疾患を持った人とどう接するか?

参考:なぜ普通の人は異端の人を悪びれずに排除し続けるのか?

でも、「特定」や「突撃」など悪い方向の炎上に加担している人の言動を観察してみると、居場所のなさが感じられて、単に悪い方向の言論を止めればいいという話でもないなと思う。

ウェブ炎上」は、ウェブに接する限り避けがたい炎上という現象をできるだけ理解しようとし、希望の感じられる本です。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。