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今、宗教を知らない人のための宗教入門書

こんにちは、木村です。最近、宗教を学ぶのがマイブームです。

宗教を学ぶと、日本に限らない幅広い世界の、エリートに限らない人々の考えを学べます。それによって自分のもつ宗教観や政治観が相対化、更新されるのは楽しいです。

今は宗教を良く知らないけれども、これから学びたい人向けの本を、整理してまとめておきます。

 

世界の宗教の全体像

24の「神話」からよむ宗教
24の「神話」からよむ宗教

神話を神話の枠組み内だけでなく、現代的に読み解いていて、読み物として面白い。幅広く相対的な見方をしている。狭義の宗教だけでなく、神話や多神教を扱い、一神教・西洋に偏らない。

特定の宗教の専門化が書いた宗教の本は多いが、横断的な分析をした本は少ない。きちんとした学者だと、論じるのが難しいのだろう。

出典に乏しく不正確に見える記述もあるが、宗教を広く楽しむ一冊目としては良いと思う。個別の話だけでなく、宗教や神話の分類がなされていて全体像がつかみやすい。タイトルで損してる気がする。

 

哲学と宗教全史
哲学と宗教全史

僕個人として、宗教に興味をもつ最初のきっかけとなった一冊。哲学面の話は、以前から哲学書を一部読んでいて知っていたが、宗教面をまるで知らない・学んでいないことに気付かされた。以前から世界史には興味が持てなかったが、宗教をテーマにすれば面白いのではという気付きをくれた。

 

宗教キーワード

神、仏、神社、寺、神道(国家神道)、仏教(大乗仏教、原始仏教)、儒教、キリスト教(ユダヤ教、カトリック、プロテスタント、東方正教会)、聖書、律法主義、イスラム教、イスラム法、宗教、一神教、多神教、政教分離、神仏習合、廃仏毀釈、靖国神社、世俗化、原理主義、過激派

 

個別宗教

仏教

仏教入門 (岩波ジュニア新書 322)
仏教入門 (岩波ジュニア新書 322)

まず初めに、インドで始まった仏教と、日本にいる私達が知っている仏教(日本仏教)は別物である。その違いや、伝来の過程が学べる。釈迦、如来、菩薩など、「多神教化した」仏教のキーワードも確認したい。

 

原始仏典を読む (岩波セミナーブックス 10)
原始仏典を読む (岩波セミナーブックス 10)

仏教の開祖は、シッダールタというインドの王子、人間であった。大乗仏教への派生や日本への仏教の伝来の途中で、仏は神格化されていった。しかし、原始仏教は思想や哲学に近いことが、この本を読めばわかる。

大乗仏教に対して小乗仏教と呼ばれることがあるが、現在では上座部仏教、テーラワーダ仏教、パーリ仏教などと呼ばれる。その流れをくんだ仏教は、タイなど東南アジアで今も息づいている。

 

キリスト教、ユダヤ教

聖書物語 (岩波ジュニア新書 56)
聖書物語 (岩波ジュニア新書 56)

キリスト教の聖書(旧約聖書、新約聖書)を、10話に短くやさしくまとめている。創世記、アダムとイヴ、アベルとカイン、ノアの箱舟、出エジプト記、キリストの死と復活など、どれも有名で面白い。

キリスト教はユダヤ教から派生した宗教で、「旧約」聖書はキリスト教目線の呼び方にすぎない。旧約聖書部分を読むと、イスラエルの民(ユダヤ教徒)の苦難、なぜ一神教化していったか推測できる。また、ユダヤ教の律法主義、イスラエルの民しか救われないという思想への派生で、キリスト教が求められることも推測できる。

 

キリスト教入門 (岩波ジュニア新書)
キリスト教入門 (岩波ジュニア新書)

ユダヤ教との関係はもちろん、キリスト教のその後の世界的な広がり方の話が読める。カトリック、プロテスタント、東方正教会は、同じキリスト教の宗派といっても、大きく違うと感じた。現代の国家の政治体制を読み解くためにも、どの地域にどの宗派が存在するかを知るのは大事。

 

イスラム教

イスラームを読む:クルアーンと生きるムスリムたち
イスラームを読む:クルアーンと生きるムスリムたち

イスラム教の本はいくつか読んできたが、正確な理解ができているのか不安になるものが多い。この本は、生活的な側面からイスラーム世界を描いている。

イスラ厶教、イスラム世界は、断食(ラマダーン)やメッカへの礼拝に見られるように、信仰の体現としての行動を重視する。これは内面の信仰を重視しがちなキリスト教(特にプロテスタント)とは違う視点を与えてくれる。

 

儒教、道教、法家

論語 (ワイド版岩波文庫 169)
論語 (ワイド版岩波文庫 169)

大学・中庸 (岩波文庫)
大学・中庸 (岩波文庫)

儒教は、名前こそ聞く機会は少ないが、日本の日常習慣に根付いている。例えば五倫の一部は、父子、夫婦、年長年下の関係を重視している。中国韓国日本で、違いはあるものの家族を重視する傾向は、儒教が影響している。親孝行、年功序列や先輩後輩、中央集権(トップダウン)を読み解くには、儒教はヒントになる。

原始仏教を宗教と呼ぶのか思想と呼ぶのか微妙であるように、儒教は思想や道徳としての側面が強い。特に孔子の書いた上記2冊は、わかりやすく道徳を説いていて、読みやすい。もっぱら政治家に求める道徳を書いていて、自分、家族を治められる人が、国や世界を統治できる、と言っている。いわゆる修身治国平天下で、戦前の道徳科目「修身」の語源となった。

儒教として国に利用されるようになったのは、中国の唐の時代頃で、1000年以上に開きがある。思想や宗教の政治利用は、奈良時代の仏教、明治時代の神道に共通するものがある。

 

老子 (岩波文庫 青 205-1)
老子 (岩波文庫 青 205-1)

道教は老子によって始められたとされているが、この本は中身が漠然としていてよくわからなかった。人間重視の儒教批判と自然崇拝・道との一体化思想程度。陰陽道、仙人、気などは道教の産物らしく、現代のファンタジーでもよく見られるものだが、その関係を知るには別の本が必要。

中国の思想 (1)
中国の思想 (1)

儒家は性善説、(韓非子など)法家は性悪説とよくいわれる。「法」といっても近代的な平等な法ではなく、人々を統治管理し増長させないための法が説かれている。為政者は妻をも疑うべきといったことも書かれおり、疑心暗鬼になりそうだが、儒教へのカウンターパンチとして毒があって面白い。

 

神道

現代語古事記
現代語古事記

日本の古代神話の一部が、解説付きで読める。国生み、アマテラスと天岩戸、黄泉、スサノオとヤマタノオロチなど、有名で面白い。

後半の人代、天皇がらみの話にはあまり興味を持てなかったが、大和王朝の正当性の主張、天の神=アマテラスのお墨付きを天皇に与える役割があることが感じられる。その傾向は、日本書紀が引き継いでいる。

古事記・日本書紀は、その書かれた時点だけでなく、江戸・明治時代にも政治的に利用されている。江戸の国学者(本居宣長など)により発掘され、「日本人」のナショナリズムを支える根拠となった。

大日本帝国・国家神道につながるのはもちろんだが、靖国神社参拝のように、それは過去のものになっていない。

著者(竹田恒泰)は、明治時代の皇族の子孫であるらしく、前書きや解説のクセが強いのが、本書の残念な部分。古事記は「真実」であるとする歴史修正主義的書き方や、大日本帝国の肯定など、保守的要素が見られるが、皇族崇拝が基本であるように見えた。

 

日本の現代宗教と政治

日本人はなぜ無宗教なのか (ちくま新書 85)
日本人はなぜ無宗教なのか (ちくま新書 85)

現代日本人の宗教分析として、短くよくまとまっている。明治期の廃仏毀釈・神道非宗教説・天皇崇拝を事実ベースで分析し、無宗教化された歴史を解き明かす。

神道と仏教、歴史を学べば、大日本帝国と宗教(国家神道)の関係は避けて通れないはずだが、明確にそれを述べた本は、他に見なかった。

国家神道を巡る流れは、単に神道や寺社サイドに都合が良かったわけでもなく、また仏教側も批判したり肯定したりしていたのは驚きだった。著者の専門とは違うかもしれないが、タイトルの問いに関しては戦後の体制への分析が知りたく、そこがないのは残念。

創唱宗教と自然宗教という用語の分類は興味深いが、後者の呼び名は適切であると感じなかった。例えば民族宗教といったほうが良い。また無宗教を名乗る日本人が多いことを嘆いているように見える記述がある(「やせた宗教観」)が、著者の宗教への思い入れによる主観と感じた。

大事なのは、日本の人が宗教を「今」知らないことではない。これから知っていけばいいし、知らない人がいれば、その面白さを伝えればいい。

 

現代日本の宗教事情〈国内編I〉 (いま宗教に向きあう 第1巻)
現代日本の宗教事情〈国内編I〉 (いま宗教に向きあう 第1巻)

スピリチュアルや来世信仰など、伝統的な宗教の枠組みにおさまらない宗教的現象を扱っていて、面白い。

 

隠される宗教,顕れる宗教 〈国内編II〉 (いま宗教に向きあう 第2巻)
隠される宗教,顕れる宗教 〈国内編II〉 (いま宗教に向きあう 第2巻)

靖国神社参拝など、宗教と政治・国家が曖昧になっていく現象が取り上げられている。面白いが、いまいち国家神道への言及が足りず、前提になっているのか不透明。「日本人はなぜ無宗教なのか」は、この点でも評価したい。

 

失敗の本質: 日本軍の組織論的研究 (中公文庫 と 18-1)
失敗の本質: 日本軍の組織論的研究 (中公文庫 と 18-1)

組織的・村的・感情重視的側面などから、日本軍を分析する。あくまで戦争・戦地がメインであり、宗教的な側面があまり書かれていないことが、逆に不思議に見えた。

日本の思想 (岩波新書 青版 434)
日本の思想 (岩波新書 青版 434)

「であるとする」の違い、権利と義務の話は面白かったが、「日本人論」の枠を出るのかはわからなかった。

 

世界の宗教と政治、比較宗教

宗教と過激思想-現代の信仰と社会に何が起きているか (中公新書 2642)
宗教と過激思想-現代の信仰と社会に何が起きているか (中公新書 2642)

世界情勢と宗教の関係を読み解くならば、まずはじめにおすすめしたい一冊。社会や政治体制に対する、過激や異端は、相対的なものにすぎない。

マルコムX(黒人至上主義)、キリスト教原理主義(クリスチャン・アイデンティティ)、ヒンドゥ・ナショナリズムなど、宗教が「過去のもの」ではなく、世界の政治に大きく影響を与えていることがわかる。

 

比較宗教学
比較宗教学

固い本だし少し古い本だが、「宗教とはなにか?」に答えを与える視点としては、これが一番良かった。それぞれの宗教はそれぞれの世界をもつという立場は、宗教を未科学や前時代の習慣として後退させず、尊重させる。

アメリカの宗教学、キリスト教神学の、過去の偏った立場をあえて説明してくれることで、宗教比較の危うさや難しさが実感できる。アメリカの文化人類学の流れを受けたのが、この比較宗教学であるようだ。

個別の分析は、世界の宗教の知識が薄い僕には散逸的であるよう感じられた。まず「24の「神話」からよむ宗教」のように、具体的なエピソード、個別の宗教をきちんと知らずして、宗教全般を語るのは難しい。

 

世俗化後のグローバル宗教事情 〈世界編I〉 (いま宗教に向きあう 第3巻)
世俗化後のグローバル宗教事情 〈世界編I〉 (いま宗教に向きあう 第3巻)

政治化する宗教,宗教化する政治 〈世界編II〉 (いま宗教に向きあう 第4巻)
政治化する宗教,宗教化する政治 〈世界編II〉 (いま宗教に向きあう 第4巻)

キリスト教原理主義やヒンドゥナショナリズムなど、宗教が政治を動かしたり、フランスのライシテ(政教分離)のように政治が宗教化している例がわかる。ヨーロッパにおいて、公共の場のスカーフ(イスラム教的)は禁じられるが、十字架(キリスト教的)は許可されるという事実が知れる。政教分離や人権は、実態をよく見なければならない。

ライシテやインドのセキュラリズム(世俗主義)は、日本の神道非宗教説にも近く感じられ、宗教と政治は今もアツいテーマになっている。

 

買ったけど、難しく興味を持てなかった

宗教の哲学
宗教の哲学

前提が共有できず、神学と何が違うのかわからなかった。

 

神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)
神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)

いろいろ書かれている雰囲気はあるのだが、教科書の細かい記述のようで、大域的で現代の視点での整理が難しかった。このタイトルの本に期待したことは、「日本人はなぜ無宗教なのか」でよく解説されている。

 

ChatAIで読むすすめ

ClaudeというChatAIに質問しながら読むと、細かい疑問を検証できて面白い。ChatGPTでは不満足だったが、議論相手としてClaudeは素晴らしい。

ChatAIを統合したサービスPerplexityに課金して、それを通じてClaude 3 Opusを使ってる。紹介システムで初月割引になるので、このリンクから試してみてほしい

Perplexityは、All(ウェブ検索利用)だとAIの良さが活かせないように思うので、Writing(ウェブ検索非利用)モードがおすすめ。