どうも、木村です。
ドイツの詩人ゲーテの晩年との対話を、若者エッカーマンが残した著作『ゲーテとの対話』を読んで、感動しました。
19世紀に生きたふたりの対話ですが、その詩人としてのあり方は、誰もが文章を使って表現する今の時代にこそ読みたい内容です。
大作には用心せよ!
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『ゲーテとの対話』の冒頭は、エッカーマンが師匠ゲーテと出会うまでの物語。
低い身分の家柄で、貧困のうちに育ったエッカーマンは、幼い頃に絵画の楽しさに目覚めます。
そして芸術家になることを志し、芸術の基礎を大学で学ぼうとする。しかし、周りの人々は「パンのための学問(法律学)」にしかお金を出してくれない。
それでもゲーテの詩との出会いがエッカーマンを突き動かす。働きながらも時間を絞り出し、書いた論文をゲーテに送ることで、ゲーテと出会いを果たしました。
理学を求めて群馬から出て、東京の大学へ進学したぼくは、自分の境遇をエッカーマンに重ねて読んでしまいました。
あるとき、ゲーテは「君はこの夏、詩をつくらなかったのかね」とエッカーマンに尋ねました。エッカーマンは、いくつか作ってはみたものの、全体として気乗りしなかったと答えます。そこにゲーテは「あまり大作は用心した方がいいね!」と釘を刺します。
「いやまったく、どんなにすぐれた人たちでも、大家の才能を持ち、この上なしの立派な努力を重ねる人たちこそ、大作で苦労する。私もそれで苦労したし、どんなマイナスを経験したか、よくわかっている。そのおかげで、なんとまあ何もかもが水泡に帰しちまったことか! 私がまともにできるだけのことをちゃんとみなやっていたとしたら、そりゃ、百巻でも足りないくらいになっただろうよ。
僕もそうですが、文章を書いたり、ものを作ったりする人は、どうしても夢を描いてすばらしい大作を作ろうとしてしまいがち。
ゲーテのような有名な詩人でさえ、一気に巨大な作品を作ることに注意せよと言っているのですから、素人ならなおさら気をつけたいですね。
感じたことは、新鮮なうちに集中してまとめるべきだ
さらに印象に残ったのは、「その日に感じたことを表現することの大切さ」を伝える次の一節です。
現在には現在の権利がある。その日その日に詩人の内部の思想や感情につきあげてくるものは、みな表現されることを求めているし、表現されるべきものだ。しかし、もっと大きな作品のことが頭にあると、それと並んでは他のなにも浮かんでこなくなり、すべての思想はしりぞけられ、生活そのもののゆとりまでその間はなくなってしまう。
ただ一つの大きな全体をまとめあげ、完成するのに、なんとまあたいへんな努力と精神力の消耗が必要なのだろう。さらにそれを淀みなく流れる一本の川のように適切に表現するには、なんというエネルギーと邪魔の入らぬ静かな生活状態とが必要なことか! 一たん全体として掴み損ねて仕舞えば、一切の労苦はむだになる。しかも、そういう包括的な対象になると、個々の部分でその素材を自分のものにしていないと、全体があちこちで穴だらけのものになるだろう。
この文章を読んで、「なぜ表現者はすぐにアウトプットすべきなのか」、その理由を見つけられました。
その日のことは、その日のうちに書くのが、感情的にも記憶的にもラクだからです。
人間は、感じたことや知ったことを忘れていってしまいます。時間が経てば経つほど、思い出して整理するのがしんどくなっていきます。
夏休みの日記とかがそうですよね。毎日書くのをサボって8月31日まで手をつけなかったとしたら、8月上旬のことは「きょうは、海に行きました」としか書けないかもしれません。
ただ、1日3行でもいいから毎日書いていれば、明らかに充実した内容を残せたかもしれないと思うと、もったいない。
ブログのネタも、溜めないで、書きたいと思ったタイミングですぐに書いていきたいですね。
ゲーテと水木しげるをつなぐ文脈
余談ですが、僕は詩に詳しいわけではありません。なぜ、ゲーテの本を読もうと思ったのか。その文脈を共有します。
2015年11月30日、93歳まで生きた水木しげるさんが亡くなりました。
子供の頃に「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメを見て、水木さんのことを「日本に楽しい妖怪を広めた人」だと勝手に思っていて、その功績の素晴らしさから彼の思想に興味をもちました。そして読んだのが、『水木サンの幸福論』という本です。(漫画もあって読みやすい)
その本の中で、「若いうちはゲーテくらい読んでおけ」と書いてあったので、「はい、水木先生!」という気持ちで、ゲーテを読もうと決意。著作の中でも読みやすそうな『ゲーテとの対話』を読んだ、という流れでした。
この10年でスマートフォンやパソコンを持ち、インターネットに触れる人が急激に増えました。そのことによって、人が文章を書く回数は増え、頻度は高くなってきています。ぜひ、『ゲーテとの対話』を読んで、表現者としての基本を学んでみてはいかがでしょうか。
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