インターネットで日々コンテンツを楽しんでいて、何らかの広告を目にしないことはないと思います。
iPhoneの新しいOSでは広告をブロックをできるアプリが公開され、話題になっていますね。
参考:iOS 9の人気「広告ブロック」アプリ、公開2日で取り下げ──「多くの人を傷付けるから」 – ITmedia ニュース
参考:広告業界人だけど「アドブロック」を使ってみた結果:「ユーザー体験が劇的に向上して驚いた」 – DIGIDAY
広告によってコンテンツの質は低くなるかもしれませんが、一方で広告はコンテンツを金銭的に支えています。無料になっていくコンテンツが多い中で、質の高いコンテンツは生き延びることができるのでしょうか?
コンテンツを編集している人達の頭の中を覗く
そんな中、先日、お酒も飲める本屋さんB&Bで行われた「若手編集者たちが語る“編集者2.0”」というトークイベントに参加してきました。「編集会議 2015秋」の刊行記念イベントですね。
登壇者は、オンラインサロンのプラットフォーム「Synapse(シナプス)」のプロデューサー稲着達也さん、ブランデッドメディア「ぼくらのメディアはどこにある?」を立ち上げた編集者の佐藤慶一さん、ウェブ制作会社LIGのオウンドメディア「LIGブログ」を運営していたライター・編集者の朽木誠一郎さんです。トークが加熱していて面白かったです。司会の鈴木さん含め、ありがとうございました。
佐藤さんは早速このイベントをもとにした記事を書いています。こちらもぜひ。
参考:完成物でなくプロセスを売ろう――「コミュニティ」はメディアとエンタメ不況を救えるか – メディアの輪郭
さて、今回僕は、安価になっていくネットのコンテンツも、コミュニティを紐付けることで面白くなってビジネス的にも成り立つのではないか、ということについて書いていきたいと思います。
安売りビジネスが広がるインターネット
僕はインターネットのコンテンツを数多く楽しんでいますが、それができるのは無料のコンテンツが多いからです。
「鈴木さんにも分かるネットの未来」で川上量生さんは、「コンテンツが無料になるのは良いことだ」というイデオロギーがネットには広がっていることを指摘しています。青空文庫、Wikipedia、Linuxなどはその良い例ですね。
また、テキストやイラストを有料で販売することのできるプラットフォーム「note」では、無料や数百円のコンテンツが多く公開されています。無料で公開して人気になった漫画が、書籍化されていくような流れも生まれています。
参考:家族と向かい合い、自分の人生を自分で生きるヒントに。noteの漫画「ゆがみちゃん」。
無料でコンテンツが楽しめるのは消費者としては短期的に嬉しいことですが、長期的に見て手放しで喜べることではありません。質の高いコンテンツが安売りされるようになってしまっては、コンテンツ制作費は下がり続けます。
儲からないけれども質の高いコンテンツが淘汰されてしまっては困りますよ。だから、ネット上の良いコンテンツにはもっとお金が払われて欲しいと思っています。
参考:ネット上の良いコンテンツにもっとお金が払われて欲しい……
参考:孤立系ブロガーはウェブの記事に新たな信頼をもたらせるか? ー 「孤立系ブロガーの集い」発
コンテンツにコミュニティを紐付けることで価値を高める
では、安売りされていくコンテンツに歯止めをかけるにはどうすればよいのでしょうか。
「政府にインターネットに介入してもらい、無料でコンテンツが閲覧できないように規制をかけてもらう」なんてことをするのが望ましい未来とは思いません。
トークイベントの中で紹介されていましたが、佐藤慶一さんは次のような記事を書いています。
参考:ノンフィクション・メディアが生き残るために必要なもの:流通への意識や新しい習慣・単位 – メディアの輪郭
「完成物」に対してだけお金を払ってもらうだけでやっていこうとするのは難しい。例えばノンフィクションメディアなら、その取材過程をオンラインサロンなどで有料で限定公開することで収益を上げることもできるのではないか、ということを提案しています。
Synapse(シナプス)の稲着さんは、「AKB48」のやり方にも学ぶことがあったとおっしゃっていました。CDを通して、パッケージ化した音楽だけを売るのではなく、メンバーに「投票」するサービスを売っています。これを稲木さんは、「パッケージの消費」から「サービスの消費」へとシフトと言っています。気になる方は、次の記事を読んでみてください。
参考:出版不況、CD不況と言われる時代の新しい”コンテンツ消費”の形を求めて。 – Wantedly
確かに、何かのコンテンツに深くハマると、そのコンテンツを介して人とつながりたくなります。
僕は、「上海アリス幻樂団」のゲームを通じて、国内最大級の同人イベントであるコミックマーケットの存在を知りました。
ブログを読むことが好きだったことから、自分自身でもブログを続けていたら、いくつかのブログ関係のイベントに参加するようになりました。ブログという枠からは少し外れますが、「編集」を趣旨とした今回のイベントに参加したことも、文章というコンテンツへの興味がふくらんだ結果です。
ブログ関係だと、「ブロガーズフェスティバル」という大規模なイベントが開催されるようですね。参加してみます。
参考:2015ブロガーズフェスティバル 【東京10月18日(日)】#ブロフェス2015
コミックマーケットやブロガーズフェスティバルなどが良い例ですが、イベントに人が集まると、そこにはお金を出してくれる企業や協力者が現れます。シナプスでは、コミュニティに参加することに対して数千円のお金を出している人が何人も居ます。
パッケージそのもので売上を立てることができなくても、イベントやサロンで生計を立てることができるのかもしれません。ネットのコンテンツも、コミュニティを紐付けることで高く売り買いされるようになるのかもしれません。
「スーパーマリオメーカー」も、マリオが好きでゲームをプレイしている人のコミュニティを上手に活用して、さらにコンテンツを生み出していますね。
参考:プレイヤーがゲームを作れる「スーパーマリオメーカー」から学ぶ、ネットを活かした面白いコンテンツ
文字でのやりとりの向こう側にあるコミュニティへ
ネットのコンテンツはとても豊富で、Twitterに書き込んだりニコニコ動画を見たりしていると、それだけで余裕で1日潰すことができます。
しかし、その生活を365日続けて一生を終えたいかというと、そんなことはありません。まともに他人の考え方と向き合わない生活は、ひどく退屈なものです。
数多くの文芸作品を残した寺山修司さんは、「書を捨てよ、町へ出よう」と言っています。病院生活の中で大量に本を読み漁っていた彼は、読書は「しばらく人生から、おりているときの愉しみ」といいます。
本を楽しむ方法は、本を読むだけではありません。出版記念のトークイベントに参加することも、楽しみ方のひとつでしょう。好きな本についての読書会を開催するというやり方もあるでしょう。
コンテンツを楽しむ方法は、コンテンツを直接的に消費することだけではありません。同じような種類のコンテンツに興味のある人でコミュニティを作って楽しむという方法があります。そうした、コミュニティを企画する力、あるいは「場」づくりする力は、お金を払う価値のあるものになっていくと思います。
コミュニティを活用できるウェブメディアや出版社は、単に文章のコンテンツを売り買いする以外の方法でも十分な収益をあげられる可能性があるんですよね。読者との交流イベントやオンラインサロンなどによってコミュニティを作って、さらにそこで出会った人同士が対談を行って電子書籍としてアーカイブされていったら面白いだろうなあ。
メディアを介して、あるテーマに関心の高いユーザーが集まるコミュニティをつくり、日々のコンテンツ発信を通じて、そのコミュニティ内の盛り上がりをつくりだす…。いま、編集者には魅力的なコンテンツを企画できる力だけではなく、「場」をつくり、「場」を盛り上げる力も新たに求められると感じます。
「編集会議」では、例えば「場」づくりについての話が読むことができます。
シナプスの田村さん・稲着さんの記事や、B&Bのスタッフ木村綾子さんの特集も組まれています。気になったら、お手にとってみてください。