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古典1冊がビジネス書10冊よりもすぐれているのはなぜか? 『本の「使い方」』を読む

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

僕は今年に入ってから古典を読み始めましたが、それは『本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』という本がきっかけでした。ライフネット生命を立ち上げた出口さんの著書です。

参考:僕が読んだ・これから読みたい人文社会科学系の古典の本27冊

古典を読むのは、(面白いのですが)はっきり言ってしんどいこと。それでも読むのは、古典が本としてすぐれているから。その理由を考えてみましょう。

参考:どうして本を読むのか? 本は人生の攻略本

 

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古典がすぐれている4つの理由

本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』には、」ビジネス書を10冊読むより、古典を1冊読むほうが、はるかに得るものが大きい」と書かれています。この本自体がビジネス書(新書)にもかかわらずです(笑)。

1 時代を超えて残ったものは、無条件に正しい(より正確には、「正しいと仮置きする」)

早速ですが、この理由は古典を読む価値として必ずあげられるものでしょう。

昔の人だって、アホなことをたくさん言ってきたはずです。ですが、アホな著作は、市場の洗礼に耐えられず、消えてしまったのです。いまも残っているということは、それは、「残った理由も理屈もよくわからないとしても、確実に何らかの意味がある」からです。だとしたら、それは無条件で、「正しい」と仮置きすべきなのです。

引用:本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法

数百年数千年の間、淘汰されずに生き残ってきた本が古典ですから、それだけ正しく役に立つことが載っている可能性が高いです。ウェブの文章は、速報性が高いけれども、誤っていたり正確でなかったりすることの逆ですね。

 

2 人間の基本的、普遍的な喜怒哀楽が学べる

時代背景の異なる古典が、なぜ、現代の私たちの役に立つのでしょうか。

それは、人間の行動を司る脳は、約1万3000年前のドメスティケーションの時代以降、進化していないと考えるからです。なお、ドメスティケーションとは、人間が自然界を支配したいと考えて始めた営為のいわば総称です。植物を支配するのが農業、動物は牧畜、金属は治金、最後に自然界のルールをも支配したいと考え神という概念を創り出したと考えられています。

引用:本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法

著者は、シェイクスピアの演劇「ヴェスニスの商人」、ギリシャ悲劇、セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」には、人間の喜怒哀楽すべてが描かれていると言っています。

いやいや、人間の脳や感情は進化してきたはずだ……と思うなら、それは文明や技術が進歩してきたこととの勘違いでしょう。

 

3 ケーススタディとして勉強になる

古典を読んで「社会には、こんなにひどい人間がいる」「人間は、千差万別である」ことが十二分にわかっていれば、予期せぬ相手があらわれても、動じることはありません。「ああ! 本に書いてあったことは本当だ」と、軽くやりすごすこともできるでしょう。

引用:本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法

古典の本は時代背景・住んでいる国が全く違う話が多いです。にもかかわらず、内容に親近感を覚えてしまうものなんですよね。

プラトンの「国家」に登場するトラシュマコスは、「不正をする人が得をし、正義は得にならない」という話をしています。それに対して、ソクラテスはそうでないと反論する。こういうテーマが2000年以上前から繰り広げられていたと思うと、人間って変わらないなあとほっこりしますね。

 

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4 自分の頭で考える力を鍛錬できる

私が経済学部の学生に「新約も出たのでアダム・スミスの『国富論』を読んだら?」と薦めると、多くの学生が「アダム・スミスですか? 市場経済のコンセプトを作った人で、『神の見えざる手』という有名な言葉を残した人ですね。読んだことはありませんが、知っているので大丈夫です」と答えます。

彼らが知っていると言っても、せいぜい、ウィキペディアに描かれている程度のことです。

私がアダム・スミスを勧めるのは、何も『国富論』の概要を知ってほしいからではありません。250年ほど前に、アダム・スミスが「どのように自分の頭で考えて市場経済の原理を見つけ出したのか」という点に目を向けて「ああ、なるほど、物事は、こういうプロセスで考えていくのだな」とアダム・スミスの思考過程を追体験してほしいからです。

引用:本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法

僕はこの本の読み方にめちゃくちゃ共感しました。学問を学ぶ時に大切なことは、その結果を覚えることだけではなく、その結果が導き出される思考のプロセスだと思っています。

古典の本は大抵分厚いですし、その中身を全て覚えることはできません。でも、そのテキストをたたき台にして、「著者はなぜ・なにを・どのように考えていたのか?」を考える練習ができます。すぐれた本は、すぐれた師になります。

ものの見方を鍛えることができれば、「もしこの本の著者が現代に生きていたら何を考えるか?」と想像し、新しい発見を生み出すことができるでしょう。

参考:「女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?」の「グルグル思考」に興味を持った理由

参考:リアル文脈ゼミ「科学技術社会論夏の学校2016に参加して思うこと」

参考:問題解決する力だけでなく、問題設定する力が大切だと思う理由

 

本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』には、古典以外の本の読み方・本の使い方も詳しく載っています。わりと短くて読みやすいですし、本の価値がよく理解できて、そのおかげで読書が捗るようになりました。本が好きな方はぜひ手に取ってみてください。

(ちなみにこの本は、下津曲さん(@shimotsu_)の次の記事で知りました。 あまり本を読んでこなかった22歳が、「読書」に関する本を7冊読んでみて分かった一つの共通点 – shimotsu

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。