どうも、木村(@kimu3_slime)です。
米沢嘉博「マンガと著作権―パロディと引用と同人誌と」を読みました。
米沢さんは、1980~2006年までコミックマーケットの運営に携わり(C14~C70)、明治大学のまんが図書館「米沢嘉博記念図書館」に名前を残している人物です。
僕はコミックマーケット・同人文化を背景にした文化(東方Project)で中学高校時代に育ってきた面があるので、漫画と著作権というテーマの本書をぜひ読んでおきたいと思いました。
本書は1999年の「ポケモン同人誌事件」を背景に、マンガ・同人誌の著作権を考え直さなくてはという思いで行われた座談会・トークイベントをまとめた内容です。
「著作権的にきわどい扱いを受けるパロディが漫画文化のベースになっている」という話が印象に残ったので、そこについて書いていきます。
パロディが漫画文化の入り口となっている
そもそも、人はどうやって漫画・創作活動をするようになるのでしょうか。
最初は何もわからないのですから、自分で考えるか、何かを真似するしかないんですよね。実際、本書でも漫画家の方は、模写やパロディから漫画を描き始めていったというケースの人がいます。
自分の思想や気持ちを表した創作物って、完全にオリジナルであることはありえないと思います。
特に漫画のように人に伝える作品の場合、まったくオリジナルなものを描いても理解されないので、何かしら共通理解のあるもの(コモンズ)を使っていく必要があるわけです。
漫画コラムニストの夏目さんは、先人たちが作った文化を継承する手段として、パロディやもじりがある、と言っています。
例えばフランスでは、いわゆるパロディ法というものがあります。原作と間違われる可能性がなくて、ユーモアがあるという条件が満たされれば、パロディは法的に認められているんですね。
参考:パロディは文化?それとも違法? – NHKクローズアップ現代
実際にピーナッツ(スヌーピー)やターザンのパロディは、裁判が行われ、結果的にパロディ側が勝ちました。フランスでは、パロディは創作活動において(条件付きで)容認されるべきもの、という考え方があるわけです。
現段階の日本では、パロディの存在を知っている人は多いでしょうが、文化として守られたほうが良い、とまで思っている人は少ないのではないでしょうか。
僕はパロディ、あるいは二次創作やMADは、新しい創作者を生み出す源泉となっていると考えています。
このサイトで紹介している二次創作やMADは、完全なオリジナルではなく、既存のコンテンツの流用と組み合わせ・リスペクトによって行われていることが多いです。それは気軽な創作の手段なのです。
最初は簡単な枠組みにのっかっていた作者が、どんどんオリジナリティを獲得していく。これは同人文化・ネット上の創作活動でよくあることではないでしょうか。
夏目さんはこう言っています。
我々がそうであったように、また我々がそうであったように、やむにやまれぬ気持ちで何かをもじってしまったり、するっていうことの中から新しい創造が生まれる。文化っていうのは常にそうなんですよ。実は。で、僕の考えですが、たとえば百のそういうものが生まれたら、必ず一の面白いものが生まれるんです。だから僕は、日本のマンガの九十九パーセントが仮にくだらないつまんないものだとしても、その九十九パーセントに支えられて一パーセントのすばらしいものが生まれてくるんですよ。
引用:マンガと著作権―パロディと引用と同人誌と pp.89-90
もしパロディが社会に容認されるとしたら、僕はこういうロジックだと確信しています。
パロディやもじりは、確かにオリジナリティが少ないかもしれない。しかし完全なオリジナルというものもまた、存在しない。
では、オリジナリティのある優れた創作物はどうやって生まれるか。それは多様な創作の試みの中から生まれる。100個作品があれば、99個がゴミのようなものであったとしても、1個すぐれたものが登場する。1個だけすぐれた作品を生み出すのは不可能で、99があるから1がある。
そしてその多様な創作の試みをしやすくするのが、パロディやもじりである。だから、著作権法に豊かな文化を生み出すという目的(第一条)があるならば、条件つきでパロディやもじりは認めたほうが良いのではないか。
というわけで、本書を読んだことで、パロディや二次創作・MADはどういう理由で著作権的に保護されたほうが良いか、その考えが僕の中で整理されました。
2000年時点でも「著作人格権は守ろう、著作経済権はネット時代に不適切だから消してしまえ」という指摘があったこともわかったり、収穫が多かったです。
これからも、こうしたマンガ・同人文化の話を踏まえて、ネット文化を取り上げていきたいと思います。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
マンガと著作権―パロディと引用と同人誌と (コミケット叢書)
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