言葉遣いは人を縛る鎖 「零度のエクリチュール」を読む

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

ロラン・バルト「零度のエクリチュール」を読みました。

この前読んだ「ひとはなぜ服を着るのか」でロラン・バルトは「モードの体系」を書いた人として紹介されていて、流行・記号・言葉について考えるきっかけが得られると考えて読みました。

言葉の使い方は、選び取ることができるけれども、自由ではない

ネットで文章を書く人が増えてきた現代においても、あてはまる話だと感じました。

 

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エクリチュール=言葉遣い

本書でロラン・バルトが論じるキーワードが、エクリチュールです。

エクリチュールとセットで出てくるのが、言語(ラング)と文体(スティル)です。言語というのは「日本語」のような言語体系、文体は個人の癖です。

エクリチュールは、社会的に影響を受ける言葉遣いです。文体と似た概念ですが、論じようとしているのは、歴史や社会の影響を受けていること。衣服と一緒ですね。選べるけれども、シチュエーションによって限定される。

言語と文体は絶対的な力であるが、エクリチュールは歴史との連帯行為である。言語と文体は対象であるが、エクリチュールは機能である。すなわち、創造と社会とのあいだの関係であり、社会的な目的によって変化した文学言語である。人間としての意図によってとらえられ、そうして「歴史」の大いなる危機に結び付けられた形式である。

引用:零度のエクリチュール p22

例えば文学の世界には文学のエクリチュールがあり、革命においては重々しいエクリチュールがある、というわけです。

わかりやすく面白い例が、スターリン主義的エクリチュールです。「ある犯罪者が国家の利益にとって有害な活動をした」という言葉は、単に事実を述べようとしているわけではなく、だから弾圧すべきだというメッセージが込められています。ほかにも、例えば「偏向分子」という言葉は、異端者を排除すべき、罰すべき対象として見るための言葉遣いです。

言語体系というものは、時間経過で変わるわけではない。文体というものも、身につければそうは変わらない。だけれども、その中間となるエクリチュールは、時代の流れや社会の動きを反映していますよね、という話ですね。

この話は、ネットスラングや、淫夢語録にも当てはまると思いました。これらは単に集団語・内輪の言葉というだけではありません。例えば「リア充」という言葉にはリアルが充実している人への鬱憤が見られますし、「たまげたなぁ」という言葉遣いは男性的です。

 

エクリチュールは鎖であるが、選び取ることができる

エクリチュールは、単に話し言葉(バロール)に対する書き言葉だ、と説明されることもあります

しかしロラン・バルトにおいては、言葉を選ぶときの意識に目が向けられています。

彼は主に当時の文学作品を読み、「文字の世界」に社会情勢が反映されていくようすを指摘しました。僕が好きなのは、「文学が自然として社会を認識しはじめる」というフレーズです。

たとえばバルザックの作中人物は、社会の力関係だけに安易にとどまっており、代数的な交代要素のように社会を構成している。ところがプルーストの人物のほうは、固有の言葉づかいという不透明性の」なかに凝縮されており、その次元にこそ人物の歴史的な状況の全体ーー職業、階級、財産、遺伝、生物学的特徴などーーが現実的に組みこまれ、秩序立てられている。こうして「文学」は、おそらく諸現象を再現しうるであろう「自然」として、社会を認識しはじめる。作家は、現実に話されている言語をもはや風変わりなものとしてではなく社会の全容をくみあげる本質的な対象として追いかけるようになり、そうするあいだにエクリチュールのほうは人びとの現実の言葉をエクリチュールを反射する場だとみなすようになる。

引用:零度のエクリチュール p99

人びとの話し言葉をとらえようとする試みは、はじめは単なる模倣遊びだったけれども、だんだんとその社会的な不平等を描き出すものとなっていってしまった、というわけです。

これは僕は、ネット・バーチャルの世界に置き換えて共感しました。例えば初期のTwitterは単なる言葉遊びの場所でしたが、だんだんと社会的な問題をとりあげたものがリツイートとして伸びていく世界となっていった。バーチャルな世界も、最初はある種の理想郷を作りたい人が集まっていたけれども、だんだんと世知辛さからは逃れられないことがわかってきた。

 

現実はつらい……けど、それだけの話しではありません。

ロラン・バルトは、夢を見ています。それが、零度のエクリチュールです。

零度というのは、最初ピンとこなかったのですが、言い換えればわかりやすい。プラスでもマイナスでもない、中性(ニュートラル)なものです。ジャーナリストの文体とも言われ、批評家の文体とも言えるでしょう。

僕たちは、歴史から逃れることはできません。生まれながらにして、何かしらの階級に影響された言葉を身につけることが多いです。現代は、誰もがかなり同質の文章を書くようにはなってきましたが。

一部の人たちだけでなく、一般の市民が文章を書くようになることで、かつての「文学」はなくなっていく。ロラン・バルトにとっての文学は、僕にとってのインターネットです。

彼は、エクリチュールが多様化することで新しい文学が生まれ、文学は言語のユートピアとなるだろうと述べました。

僕には、いかに文学を生み出すのが簡単になっても、それが流通するかどうかには資本主義のメカニズムが大きく影響しているので、ユートピアとまでなるとは思えません。しかしながら、エクリチュールが多様化すれば文学は自由になっていくというのは同意で、ネットの文章も、一度社会の影響を強く受けるフェーズを経る。けれども、その先には、零度のエクリチュールが成立しうる、それを目指す人びとの思いはあり続けるだろうと思っています。

 

零度のエクリチュールの章構成は以下の通り。

I

エクリチュールとは何か

政治的なエクリチュール

小説のエクリチュール

詩的エクリチュールは存在するか

II

ブルジョア的エクリチュールの勝利と破綻

文体の職人

エクリチュールと革命

エクリチュールと沈黙

エクリチュールと言葉

言葉のユートピア

ロラン・バルトの話は、基本的には言葉を扱っているけれども、言葉の分析を通じて見える社会を扱っているようにも見えますね。そこが面白いです。「作者の死」や「モードの体系」にもつながっていくところでしょう。読みたい。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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