作り物がリアルを生み出す時代を迎える 「シミュラークルとシミュレーション」を読む

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

VRやバーチャルYouTuberについて考えるために、ボードリヤール「シミュラークルとシミュレーション」を読みました。

言葉遣いが難しく読むのに苦戦しましたが、「作り物がリアルを生み出す時代を迎えた」という僕なりのボードリヤール解釈は得られたので、そこについて書いてみます。

 

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シミュラークル、シミュレーションとは何か

タイトルにも使われているキーワード、シミュラークルとシミュレーションの意味を掴みましょう。

日本語でシミュレーションというと、専らコンピュータシミュレーションのような、模擬体験をイメージしますかね。英語のsimulationは、「何かを真似する、装うこと」を意味します。simulには「同時に」という意味があり、similarで似ているですね。

そしてシミュラークル(simulacrum、複数形でsimulacra)は、「模擬して作られたもの(肖)像、まがいもの」の意味。僕は「作り物」とう訳を当てるのがしっくりきました。

さてボードリヤールにとってのシミュレーション、シミュラークルとは、

シミュレーションとは、領土、照合すべき存在、ある実体のシミュレーションですらない。シミュレーションとは起源(origine)も現実性(réalité)もない実在(réel)のモデルで形づくられたもの、つまりハイパーリアル(hyperéel)だ。

引用:シミュラークルとシミュレーション pp.1-2

シミュラークルの例としてわかりやすいのが、ディズニーランドです。海賊船がありファンタジーがあり、車のようなリアルが入り込まない場所ですね。どこかの国を模倣したわけでもない、完全な作り物の国だけれども、それが人気を得ている。

 

作り物がリアルを生み出す

ボードリヤールの主張はこうです。

ディズニーランドだけでなく、ロサンゼルス、それをとりまくアメリカは、ハイパーリアル(シミュレーション)の段階にあるシミュラークルの先行が起こっている、それがアメリカ、あるいは現代(1981年)の特徴だ、という分析です。

ディズニーランド以外で挙げられていた印象的な例が、1972年に起こった政治スキャンダル事件・ウォーターゲート事件です。政治活動の場で盗聴装置のとりつけがあったことがはじまりで起こった出来事の総称で、政府側は隠蔽を行い、新聞メディアであるワシントン・ポストがそれを暴こうとする構図ができました。これもいわば人為によって「事実」を作り上げようとする行為として見られるでしょう。

8章ではマクルーハンを引用しこう言っています。

要するに、メディアはメッセージだ、というのはメッセージの終わりだけを意味するのではなく、メディアの終りをも意味する。文字通りのメディアなるものはもはや存在しない(私は特に大衆のエレクトロニクス・メディアに注目しているのだが)ーーつまりある現実ともうひとつの現実、ある実在する状態ともうひとつの実在する状態とを媒介する力のある機関はもう存在しないのだ。

画像引用:シミュラークルとシミュレーション p.108

メディアは、単に現実を媒介するものではもはやなくなっていて、それ自体が「現実」を作り出しているという指摘ですね。現代ではよく知られた話かもしれませんが、それをシミュレーションという筋を通して分析しているのがわかりやすいです。

この話は、VRやバーチャルYouTuber、もっとおおざっぱにネットとリアルの関係について考えるときに使えます

ネットやバーチャルリアリティは典型的なハイパーリアリティ(人為によって作られた現実)です。「バーチャルYouTuberがリアルなイベントに出演する」ということは、まさにシミュラークルの先行と言えるでしょう。

 

ボードリヤールの主張を僕なりにまとめるとこうなります。

大量生産・消費社会において、コピーされていくものは増え、リアルなものは死んでいった。むしろ、シミュラークルの方が(ハイパー)リアルを生み出している。複製技術によって外観は死んだし、電気・情報の技術によって意味が死んだ。そういう時代が現代だ。

「消費社会においてオリジナルの価値は消滅した」はベンジャミン、「メディアは人間を変える」がマクルーハンによるものでしょう。「死」「終わり」を訴える傾向にあり、自身もニヒリストと名乗っているのは、ニーチェによるものですね。20世紀に入って「意味が死んだ」という主張をする点では、ポストモダニストとも言えます。

「リアル・現実って何?」という疑問はVRやネットのことを考えるときにつきものなので、それを時代の背景とともに理解できたことが、「シミュラークルとシミュレーション」から得た収穫でした。

ボードリヤールは電気のメディア、つまりテレビや通信の技術に注目していましたが、現在ではインターネットが登場しています。コピーはますます生み出しやすくなり、シミュラークルが先行する傾向は強くなったという点で、現在に通じる分析と言えるでしょう。

 

ボードリヤールの考え方は、面白かったのですが、ところどころ書き方が気になってしまう部分がありました。

例えばp69「一般的にテレビと情報はルネ・トム(René Thom)の説くトポロジーの理論によるカタストロフの一形態だからだ」という表現。

フランス出身の哲学系の人って、わりとこういう文学的な表現、メタファーを使って説明するんですよね。

それ自体は良いのですが、話の筋に関係あるのはカタストロフという言葉だけであって、トポロジーとかカタストロフ理論とか関係ないわけです。つまり、「数学の言葉を援用して、それっぽい言葉で煙に巻きたいだけじゃない?」と思ってしまいます。ソーカル事件と似たものを感じます。

僕は大学では数学をやっていたので、数学の概念が「言葉遊び」に使われる状況は悲しいんですよね。応用されるのは良いのですが。(ボードリヤールに限らず。)

カタストロフィー理論はもとは数学の理論であったものの、そのカタストロフィという言葉やカオス理論の流行から、経済学や人文学者の間でも流行っていたようです(その流行は初めて知った)。

参考:70年代のカタストロフィー・ブーム – 複雑系経済学とは何か

ちなみにトムのカタストロフィ理論の数学的な面は、次の考究録がしっかりとまとまっている印象です。

参考:特異性の概念は近代数学へ如何に寄与したか(III) – 芝浦工業大学

 

シミュラークルとシミュレーション 」の構成は以下の通り。

1章が本書の軸となる論、2-18章はそれをベースにした個別論ですね。

1章 シミュラークルの先行

2章 歴史ーー復古のシナリオ 3章 ホロコースト 4章 チャイナ・シンドローム 5章 アポカリプス・ナウ(『地獄の黙示録』) 6章 ボーブール効果ーー内破と抑止 7章 ハイパーマーケットとハイパー商品 8章 メディアの中で意味は内破する 9章 絶対広告と零広告 10章 クローン物語 11章 ホログラム 12章 クラッシュ 13章 シミュラークルSF 14章 動物ーーテリトリーとメタモルフォーズ 15章 残り 16章 螺旋しかばね 17章 価値のラスト・タンゴ 18章 ニヒリズムについて

 

VRやバーチャルYouTuberついて考えるときに、コピーの増加する近代、それによって変化する「リアル」の変化は、おさえておくべきものだと思っています。

次はまだちゃんと読んでいなかった「複製技術時代の芸術」に手を付けようかなと。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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