どうも、木村(@kimu3_slime)です。
池上彰「高校生からわかる「資本論」」を読みました。
資本主義は、現代の日本にも続く考え方です。にもかかわらず、僕はその内容をよく知りません。なので、本から学ぼうというわけです。
この本は、マルクスの「資本論」を池上彰さんが解読するというものです。普段読んでいる古典に比べると、めちゃくちゃわかりやすい。
マルクス資本論というと、ロシア・中国などの社会主義国や、日本でのマルクス主義を伴った学生運動など、なんとなく胡散臭いイメージを持っていました。
ところが、マルクスの「資本論」自体はそういう胡散臭さはありません。マルクスの主張とマルクス以降の運動(社会主義・マルクス主義)は別物でした。
今回は、マルクスの趣旨からずれた社会主義はなぜ広まったか、資本主義とは一体何なのか、それを簡単にまとめようと思います。
社会主義国家はマルクスの趣旨と違う?
マルクスは1818年、プロイセン(現西ドイツ)にユダヤ人として生まれました。法学と哲学を学んだあと、新聞記者になり、世の中の事を批判するように。
その後、工場を経営する資本家エンゲルスのサポートを受けて研究。1864年には国際労働者協会の中心人物になり、1867年に「資本論」を出版します。
大雑把に言えば、「資本主義が発達すればするほど、労働者はモノとして安く扱われていく。そうしていつか労働者たちは革命を起こす。」というもの。
マルクスが後の社会に大きく知られるようになったきっかけとして、ソ連があるでしょう。
ソ連ができあがるきっかけには、レーニンがマルクスを学んだことにあります。1917年にロシア革命を起こし、社会主義国家を作ろうとしたわけです。
しかし、これはマルクスの趣旨とは違います。彼は、資本主義が十分に発達し、(工場)労働者が増えた段階における労働者による革命を想定していました。レーニンの革命の頃は、革命が終わっても農民が多く、資本主義が発展していませんでした。下地のない実行だった。インテリ社会主義とも呼ばれます。
これはレーニンが解釈したマルクス主義、マルクス・レーニン主義であり、マルクスそのものの主張ではありません。とはいえ、ソ連型の社会主義が各国の手本にされてしまった。
現代において、資本主義と社会主義はよく対置されます。ソ連や中国の社会主義の失敗を見て、マルクスは間違っていた、資本主義の勝利と捉えられることがあります。
ソ連や中国のケースは、前提条件がまず違うわけで、社会主義=失敗と結論づけることはできないわけです。
至極当たり前のことですが、そもそも僕は社会主義・資本主義というものを知らなかったので、そんなことすらわかっていませんでした。今知ることができて良かったです。
池上さんは、「資本主義が勝利したと勘違いし、すべてを市場に任せる新自由主義が流行った。その結果として恐慌や派遣切りが起こっている」と捉えていますね。
また、戦後の日本ではよくマルクス主義が学ばれていたと言います。資本主義を放っておくと、労働者が貧しくなって革命が起きてしまうよ、とマルクスは言うわけです。
それを学んだ官僚、政治家、企業家・社長は、マルクス的な発想を持っていたんですね。かつて日本にあった終身雇用制というのは社会主義的ですごいなと思いますが、それはマルクス主義が学ばれていたからあったのかもしれません。
資本主義とは何か
さて資本主義とは何か、「資本論」をかいつまんで話しましょう。
普通の人、労働者は、その労働をお金に変え、お金を商品に変えて生活していますよね(W-G-W)。資本家は、お金(資本)を使って労働力を買い、そこからより多くのお金を引き出します(G-W-G’)。彼らは、お金を使って価値を得るためにではなく、お金を増やすことを目標に動き出すようになるのです。
そうするとどうなるか。資本家は労働者をモノ(利益を生み出す機械)として見るようになってしまうのです。
資本家と労働者の契約は自由で平等なはずですが、実際は労働者は労働力以外の商品を販売することができません。一方で資本家は工場などの生産手段を持ち、商品を販売できる。
資本・生産手段を持っているかどうか。この差は大きくなっていきます。
工場は24時間起動させっぱなしの方が生産効率が良いですから、交代制で人が夜中も働かされるようになりました。機械は人が楽になるためではなく、人よりも効率良く生産できるときに導入されます。機械が入ると生産効率は上がり、商品は安くなり、人は仕事が奪われ、労働力は安くなってしまうわけです。結果失業者は増えます。資本家は人に嫌がらせをしたいわけではないのに、資本を増やそうと動くと労働力を安く買い叩くことになるわけです。
これは資本主義の発展に伴う必然です。その後どうなるのか、マルクスはこう予想します。資本家同士も競争が起こり合併していって、やがて数千の人が同じ工場で働くようになる。結果労働者がまとまって、革命が起こって資本主義が終わる。
マルクスの資本論は、資本は商品という形で現れると考えます。食べ物も商品、お金も商品、労働力も商品。だから商品を分析しましょうです。そして、商品の価値は労働によって生み出される(労働価値説)が提唱されるわけです。
こんな感じでしょうか。面白かった部分をピックアップしてみます。
一つ目が、資本家精神の話です。
人はお金を持っているだけでは資本家ではない。お金を使ってお金を増やそうとするときに、資本家になるわけです。
もともとはお金を使って商品から(使用)価値を得るために資本家になったのに、やがては抽象的なお金のみを目標にしてしまうようになる。
これをマルクスは「人格化された資本」と呼びます。資本家はもともとは人間だったのに、彼自身が資本を増やす資本そのものになってしまったという表現です(笑)。個別の資本家が悪いのではなく、資本に心が支配され、人の労働環境を軽視するようになってしまうことを問題視しているわけです。
これは単なるアンチ資本主義ではなく、まっとうな指摘だと思いました。
権力分立を唱えたロックやモンテスキューを思い出します。一人の人間に権力を与えすぎてしまうと、公共のためではなく私利のために動くようになってしまう。だから権力は分散して、相互に監視しましょうと。マルクスの場合は、資本家を労働者によって監視するということですよね。労働組合の重要性がわかります。
もう一つ面白かったのは、技術が発達しても、機械が導入されても人間の労働は楽にならないと、約150年前の時点で指摘していたことです。
現代のビジネス系のニュースで、人工知能(AI)やロボットが人の仕事をしてくれるのに、なぜ人は楽にならないのかという疑問を見ることがあります。
参考:AIが49%の仕事を奪った時、人は何をするか – 日経ビジネスオンライン
その疑問は、マルクスの機械に対する見解で明らかです。
資本家はなぜ機械を導入するかというと、生産物を効率よく作るためです。逆に言えば、機械に払うお金より人間に払うお金の方が安ければ、しんどい仕事でも人を使うわけですよね。
実際当時のイギリスでは、機械を入れるより人を働かせる方が安上がりなときは、病人になるまで働かせていたそうです。これは過労で自殺するまで働かせることのある現代日本とそう変わりませんよね。
しかも、機械が導入されるようになれば、機械は人間の競争相手になります。かつての仕事は、機械よりも安くやらなければ価値がないというわけです。ロボットやAIを資本家のみが使えるということになるなら、むしろ労働者を安く働かせることにつながります。
マルクスについて批判する点を考えると、「労働者がつらいなら労働者やめれば?」と個人の観点からは思います。農家や自営業があるわけで。
とはいえ、自営業だから良いって話でもないんですよね。
現代はフリーランスブームで、業務委託という名前で、実際は労働基準法より安く仕事を頼んでいるケースがあると聞きます。
時間給与制ではなく、出来高賃金・成果報酬制にしたところで、結局労働力は安くなっていってしまいうのです。
僕個人の現時点の結論は、資本主義経済の中で労働力を安く買われたくなかったら、知識を得て、商品を作る手段(と資本)を持つことです。
それは資本家になれ、と言っているに等しいのかもしれません。ただし現実問題それはできる人が限られています。
資本はなくとも、商品の生産手段を持っておく、ことならできるかもしれないな、と思います。自らの企画で、価値のある商品を生み出せるなら、資本家からお金をもらう必要はないのですから。
マルクスの時代ならば、工場に勝てるような生産手段を持つのは資本家でないと無理だったでしょう。しかし、現代ならばパソコンやインターネットはその生産手段になりうると思います(なるとは言ってない笑)。
ともかく、「池上彰の講義の時間 高校生からわかる「資本論」」を読んで良かったです。
むき出しの資本主義経済の恐ろしさがよくわかりました。
また、社会主義国があったからこそ、資本主義国でも、労働者の権利、失業保険、年金などの法制度が整備され、労働者の環境が良くなったということもわかりました。
世界中が単一の思想に染まるよりも、国ごとに違う思想があって緊張関係にある方が良いのではないかと思います。何事もバランスが大事ですね。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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