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文化は人を集め、また排除する 「資本主義のハビトゥス」を読む

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

ブルデュー「資本主義のハビトゥス―アルジェリアの矛盾」を読みました。

もともと僕は、はてなブログやTwitterで使われていた文化資本という言葉の定義・文脈を知りたくて彼の本を手に取りました。

ですが、この本では残念ながらその言葉は登場しませんでした。文化の再生産・文化資本については、再生産 〔教育・社会・文化〕に載っているのでしょう。

 

どんな本?

資本主義のハビトゥス―アルジェリアの矛盾」は、フランスの社会学者ブルデューが、当時フランスの植民地であったアルジェリアに実際に赴いて行ったインタビュー調査などをまとめたものです。

中身は結構読みにくいのですが、あらすじを僕なりにまとめるとこうでしょうか。

植民地化によってアルジェリアには新しい経済システム(資本主義)が強制的に持ち込まれたわけです。しかしながら、そのシステムはアルジェリアに住む伝統的な暮らしをする人にとって飲み込みがたいハビトゥス(意識されなくなった習慣)を要求してきます。

例えば、生活に必要なものは物々交換で手に入れていたのが、貨幣を使うことに切り替わり、お金を使い果たしてしまう。土地が自由に売買できるようになって、貧しくなった人は持っていた土地を失い、したがって農業ができなくなり、職を失う。また、アパートに住むには家賃を毎月払わなければならず、適応できなければスラム暮らしになる。経済システムが置き換わっても、住んでいる人々の習慣(ハビトゥス)は、そう簡単には変わらず、適応するのに苦戦するわけです

つまり、新しい経済システム(資本主義)に対して、アルジェリアの労働者の習慣や思想が適応していく過程を調査をもとに論じていく本ですね。

アルジェリアでは1954年から1962年にかけて独立戦争が行われていて、まさにその革命を目指そうとする真っ只中の声を拾い上げた貴重な調査と言えます。(本の原題は、「アルジェリア60」)

個人が合理的な行動をすると仮定してモデルを組み立てる経済学とは違い、ブルデューはあくまで社会調査・現実にもとづいて経済的行動を考えるのがポイントです。

彼は、アルジェリアでの独立運動に向けた論争をするのではなく、アルジェリアで実際に何が起こっているのかを理解しようとしました

この実際として何が起こっているのかを調べあげようとするアプローチには、僕も共感しました。話題になっていることに対して、何かを主張するよりも前に、まず何が言われているか、何が起こっているのかを知りたい性質なんですよね。

 

未来のことを計算する

さて、本の中で面白かった部分をピックアップして感想を述べていきたいと思います。

まずは、未来のことを予測して行動するのは、アルジェリアの農民にとっては全く当たり前のことではないということです。

例えば、農民は麦がある年に余分に取れたとしても、それを種として蒔いて未来の収穫量を増やそうとすることはせず、消費するためにとっておくのです。投資財として扱うのではなく、直接財として扱うとも言えるでしょう。

また他の例として、ある村では対抗する家と競い合うためにトラックを買ったけれども、それは生産効率を上げてお金を回収するためではなく、名誉のための行動だったことが紹介されています。

日本でも、来年の話をすると鬼が笑うと言いますよね。それと同じような論理で、未来のことについて考えるのは神の仕事であり、人間の仕事ではないと考えられています。

明日、それは、墓のことだ」という言葉があり、明日のことにこだわっている人がいると「あいつは、神の仲間になりたがっている」と言われるようです。未来を予測し、計算して行動すること自体がおこがましいということですね。

資本主義が当たり前になった世界に住む僕たちは、まずお金を稼ぎ、そのお金を使うことによって好きなものを手に入れます。そこには、実は計算の精神が潜んでいたわけです。これは僕にとって驚きでした。

例えば農民が持つ麦は、持っていれば麦が使えるし、その価値は明らかです。これに対して、お金は、これから先のことを考える習慣がなければ、どのくらい必要かわかりません。そのため、一ヶ月の労働で得た賃金を、わずか数日で使い果たしてしまう農業労働者も少なくなかったそうです。

つまり、資本主義社会で生きるためには、お金という直接に価値を持たないものの扱い方を覚える必要があるんですね。

特に、お金は何にでも使えてしまうから、使いすぎないようペース配分を考える必要がありますし、お金とモノの交換比率(価格)を意識してちゃんと価値あるモノを手に入れる力が必要です。

ものすごく当たり前のことを言っているようですが、物々交換で成り立っていた社会に自分が生まれたとしたら、これに気づくのは難しいなと思います

ベンジャミン・フランクリンが提唱した「時間の使い方が人生における成功の秘訣」という考え方も、決して当時は当たり前ではなかったことを思い出しました。

参考:「時間こそ、人生を形作る材料」時間節約術の元祖フランクリンが提唱した時間の捉え方

 

文化は人を集め、また人を拒む

もう一つ面白かったのが、アパート(近代的住居)と階級の話です。

スラム街に住む人々は、バラック(仮設の建物)の悪質な環境から逃れようとアパートに引っ越すのですが、それによって必ずしも幸せになれないのです。そのことを、ブルデューは家計にまつわるアンケート調査やインタビューから解き明かしています。

例えば難しいのが、家賃を支払うということです。スラム街では、支払期限を家主に頼み込んで伸ばしてもらったり、親戚や友人にお金を借りることができました。しかし、アパートの支払期限は個人関係のように柔軟ではなく、官僚制のように厳しいのです

しかも、収入が少ないからこそ家賃の負担の割合は大きくなり、食費・ガス・水道・電気をできるだけ使わなくなる。こうなると、給与・家計を合理的に管理する余裕がなくなっていまいます。これでは、結局スラム街に住んでいるのと同じような状況に戻ってしまうのです。さらには、スラム街にあったような人のつながりも少なくなくなってしまっています

近代的住居は、近代的生活を可能にするものであるはずが、逆説的にも、近代的な生活に対する障害となるのである。

引用:資本主義のハビトゥス―アルジェリアの矛盾 p.140

逆に、すでに一定の収入の得られる仕事を持っている中間階級・上層階級の人々は、アパートに引っ越してもさほど苦労なく生活費を払うことができて、それによって恩恵を受けることができていました。彼らは、家具や本を買うことができて、子供に教育を受けさせられるようになり、近代的な生活ができるようになるわけです。

新約聖書の一節「富める者はますます富み、貧しき者は持っている物でさえ取り去られるのである」がまさに起こっていますね。むごい話です。

これは記事冒頭で述べた文化的資本の考え方に近い話ですね。

つまり、一定の収入があるからこそ、より文化的(ここの場合は近代的)生活を送ることができて、その生活習慣がより良いお金の使い方を生み出す。しかし、そもそも最初のお金がなければ、スラム街のような生活をすることになり、合理的な考え方や計算の考え方を学ぶ機会も失われてしまう

自由をもたらすかのように見える資本主義が、階層を固定するようなループを生み出してしまっていますね。お金に馴染まなければいけない社会というのは、それに文化的に馴染めない人にとって、苦しいものだと思います。

 

ブルデューは、上で述べたような階級の差異をディスタンクシオンと呼び、独立運動や革命運動を理解するのに重要だと考えています。彼はこの本を書いた後に、振り返ってこう述べています。

文化という考えは、奇妙なことに、矛盾したものです。つまり、カビールのようなアルカイックな社会では、文化は、人と人のコミュニケーションの手段です。それは、人々を集合せしめるのです。しかし、また、文化は、排除の手段でもあります。ここに、矛盾があるのです。

文化は、言語と同じく、コミュニケーションするためのもの、媒体であり、人々が共有するものであります。まさに、コミュニエ(共同する)ためのものでありますう。しかし、奇妙なことに、それは、排除と分化の手段ともなるのです。それが、カビールのようなアルカイックな社会と、フランスのような社会とを比較することで、私が、見いだしたことです。

引用:資本主義のハビトゥス―アルジェリアの矛盾 p.179

 

文化は人を集める一方で、また人を排除する。これはこの本を読んで得られた重要な発見です。

僕はこの「文脈をつなぐ」というブログを運営していますが、その想いとして次のようなものがあります。

ニコニコ動画・インターネットには、面白い文化・コミュニティがたくさんあります。しかしながら、そのコミュニティは成長すると、外部の人に対して排他的で、不親切なものになっていきやすいのです。わかる人だけわかればいい、といったように。それが嫌で、前提知識なし、一から読んで分かるようにそのコミュニティの文脈を外部につなごうとしているんですよね。

 

ブルデューは発展途上国アルジェリアと先進国フランスの両方を見てディスタンクシオンという言葉を持ち出しましたが、最近だと、アメリカのトランプ政権を巡って、知識人とそうでない人との分断が論じられているのを目にしますね。(参考:分断は誰が作るのか——アメリカでトランプ支持の知識層と話す

これからも国や文化を巡った対立構造がネットで論じられることは多いでしょうが、現場での調査をもとに考えたブルデューのアプローチを大切にしたいと思います。

 

そういえば、同じ資本主義に関する本と言えば、ウェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」をまだ読んでいないので、読まなきゃなあ。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

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