どうも、木村(@kimu3_slime)です。
ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(略称:プロ倫)」を読みました。
もともとウェーバーは社会学の第一人者として有名だったので知っていて、「職業としての学問」は前に読んで面白かった記憶があります。
最近はブルデュー「資本主義のハビトゥス―アルジェリアの矛盾」を読み、資本主義にまつわる思想をはっきりと知りたくなって、プロ倫を読んでみました。
400ページ近く長い本ですが、ヴェーバーはまだるっこしいながらも間違えず慎重に話を進めていくので、わかりやすく面白い本でした。なので紹介しつつ、考えたことを書いてみます。
「プロ倫」の要約
自分なりに本の内容をまとめてみます。
タイトルに資本主義とあるように、この本は「(近代)資本主義がいかにして発生したか」を解き明かそうとするものです。
その起源には、金銭を得ようという欲望ではなく、禁欲を実践するプロテスタント(キリスト教の一宗派)の倫理があった、という主張。「本当??」って感じですよね。
解き明かそうとしている資本主義の精神の例として、アメリカ建国の父:ベンジェミン・フラクリンが挙げられます。彼は「時は金なり。信用は金なり。」と、時間の使い方や日頃の行いを、お金に変えるように主張していますね。
このような精神が生まれる最初のきっかけとして、マルティン・ルターの天職という概念が挙げられます。ルターは中世の聖職者で、のちのプロテスタントの源流となり、宗教改革を起こした人ですね。
天職というのは、もとはberuf(ベルーフ)という言葉。日本語の天職だと、単に自分にぴったりの職業という意味で捉えられそうですが、神の召命としての職業というニュアンスがあります。英語で言うcallingに近いですね。ルターは聖職の翻訳にあたって、この天職という概念を輸入したんですね。
そしてプロテスタントの思想を持つ集団を調べていくと、禁欲がより必要とされていくようになることが判明します。
神の恩恵を得るために必要なのは、教会に通う事でもなく、懺悔でもなく、世俗の中で天職に励むことなのだと。神の意志に合わせて自分の生活の全てを合理化することのみが、救いの確信が得られると理解されるようになっていきました。
このような禁欲的な生活は、楽しみ(快楽を得るためだけ)のための消費を禁止しましたが、一方で伝統的な考え方としてあった「お金を貯めてはいけない」という倫理をなくすものとなりました。
働きなさい、お金は無駄に使ってはいけない(節約しなさい)……こうなったら、貯めたお金を資本として使い働くしかありませんよね。これは、(近代の)資本主義ですね。お金を儲けるだけの(伝統的な)資本主義は世界の各地にあったのですが、合理的で徹底した資本主義というのは、天職・禁欲の思想がある場所から生まれたのです。
しかしその後は、お金が貯まった人々は、食品や生活にお金をかけるようになってしまい、信仰も失われていってしまうんですね。
もともとは神の救いを求める一心で禁欲的な生活をして、その方法として資本主義を生み出したのに、いつの間にか資本主義の方が強力になってしまい、母体となった信仰は失われていった。
バックスターの見解によると、外物についての配慮は、ただ「いつでも脱ぐことのできる薄い外衣」のように聖徒の肩にかけられていなければならなかった。それなのに、運命は不幸にもこの外衣を鋼鉄のように堅い檻としてしまった。禁欲が世俗を改造し、世俗の内部で成果をあげようと試みているうちに、世俗の外物はかつて歴史のその比を見ないほど強力になって、ついには逃れえない力を人間の上に振るうようになってしまったのだ。
引用:プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 p.365
というのが、長くなってしまいましたがプロ倫の要約ですね。本当はもっと細かく根拠をあげて書かれているので、ぜひ自分で読んでみてください。
資本主義によって弱まった精神
僕は生まれてこの方、宗教にあまり縁がありません。何かの神を信じている人はすごいなと思います。
プロ倫を読む限りでは、資本主義の発達によって、信仰や天職意識というのはかなり薄れていったようです。
確かに、僕が生きてきた世界・日本はそういうものだったかもしれませんね。
勤労の義務は憲法に書かれていますが、働かなければならないという義務感を覚えることはありません。十分な貯蓄があったら、本を読んだりゲームしたりする時間は増えると思います。ただ、生活費を稼ぐ必要はあるので働きますが。
ヴェーバーは、世界のさまざまな宗教を比較して、理念型(概念)を取り出して分析する研究をしています。基本的に価値判断をしない。自分の信条を伝えたいというよりも、ただ事実を誤解なく整理していきたい。まさに学者です。
ただし、プロ倫で全体として描かれていたことを考えると、禁欲・天職の精神が失われていったことを嘆いているように見えるんですよね。「職業としての学問」でも、「日々の仕事(ザッへ)に帰れ」と言っていますし。
資本主義が良い悪いではなく、もともとあった信仰の精神を失わせるほどであったというのは僕にとって驚きでした。
また、「資本主義はどうしてヨーロッパから生まれたのだろう?」という疑問に、宗教という明快な視点を与えられたのも面白かったですね。ウェーバーは世界中の宗教について研究を残しているので、そちらの本も読みたいですね。
自分が生きている世界には、どんなことが当たり前として組み込まれているのか。その当たり前は、どんな歴史的経緯があって今にまで伝わっているのか。それを本で知り、考えるのはとても面白いことです。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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