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近代とは何か 〜 理性、啓蒙思想、科学をテーマに語る

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

最近、いわゆる啓蒙思想の本を一通り読んだので、近代とは何なのか、理性、啓蒙思想、科学をテーマに、僕なりに考えてみようと思います。

 

理性とは何か スコラ哲学から生まれたもの

僕は、近代を説明するときに、まずデカルトから出発します。

1596年にフランスに生まれた彼は、「理性を使って学問を作ろう」と呼びかけました。

理性、あるいは合理性とは何でしょうか。それを理解するためには、中世を知ると良いでしょう。

近代に入る前(中世)の学問は、トマス・アクィナス(1225生)に端を発するスコラ哲学が支配的でした。

スコラ哲学は、簡単に言えば、キリスト教思想+アリストテレスの自然学です。

神学を学んだ宗教改革者ルター(1483生)は、神の救いは「信仰のみ」によって得られると考えました。

当時のキリスト教は、国家を主体とした国教会となっていて、「教会に行かなければ救われない」という行動を求めていたわけです。

ルターはそこに反対しました。のちにカトリックとプロテスタントに分かれるきっかけですね。

と同時に、彼は信仰と理性を分離したわけです。理性のみでは神にたどり着けない。一方で、哲学・自然学をやるためには、理性が必要で信仰は不要だと。

参考:【科学の本質を探る㉖】中世スコラ学者による近代科学への貢献(その2)スコラ哲学を崩壊させ、哲学を神学から分離したスコラ学者 阿部正紀 – Christian Today

こうしてデカルトの思想にたどり着きます。理性とは、何か教えを信じることではないし、感覚でもないのです。

さてデカルト以降は、啓蒙思想と近代科学という二つの流れが生まれました。ひとつずつ見ていきましょう。

 

啓蒙思想とは 神の支配から民の支配へ

啓蒙思想とは、人間とは何なのか、国家と人間はどのような関係にあるのか問い直す思想です。

結果として、人間の平等、自由、社会契約にもとづく国家、法治国家を重んじる思想が生まれました。

その思想の最初は、ホッブズ(1588生)の「リヴァイアサン」だと思います。

彼はデカルト同様、自然をひとつの機械のように考えました(機械論的世界観)。

それにもとづけば、人間の体もひとつのからくり人形のようだと。さらに言えば、国家は、人間というパーツから出来上がった大きな機械で、怪物リヴァイアサンのように力を持っている。

機械論的世界観を人間にも当てはめることで、国家は宗教的な権威にもとづくのではなく、人工的にできあがっていると考えたのです。

当時は、支配者は神からその支配権を授かっているという王権神授説がありました。君主や教会が権威を持ち、一般市民はそれに従属していたのです。

「それは本当なのか?」と疑問を投げかけていった人たちが啓蒙思想の人々です。

ロック、モンテスキュー、ルソーなどがそうですね。

啓蒙思想の中身の流れをかいつまんで言えばこうです。国はどうやってできるか。人間は個体差あれど、おおむね平等に生まれます。しかし、国家がない状態(自然状態)だと、争いが起こり平和に暮らせない(戦争状態)。じゃあみんなで約束(契約)をして、生命・財産・自由を守ろうじゃないか。もしそれが守られないなら、約束は破棄されて国家ができる前の状態に戻るよね。

こうした考えが、1787年あたりから始まったフランス革命(フランス人権宣言)、1776年のアメリカ独立宣言に影響を与えたと言われます。

各地で、近代国家を作ろうと革命が起こったわけですね。

 

近代科学とは 学問の民主化

啓蒙思想と同時代に、近代科学も生まれました。

ニュートンは1687年に「自然哲学の数学的諸原理(プリンキピア)」を書き、近代物理学を生み出しました。天体の運動が単一の法則によって説明され、地球が動いていること(地動説)が証明されたわけです。

アダム・スミスは、1776年に「国富論」を出版し、近代の経済学を築きました。ニュートンが発見した物体の運動法則のようなものが、経済の中にもあるのではないかと考えました。

1700年代に活躍したドルトンラボアジエは、燃素(フロギストン説)や錬金術を否定する原理を発見し、近代化学を築きました。

ダーウィンは1859年に「種の起源」を書き、地球にさまざまな生き物が存在するのは、創造主がそう作ったからではなく、環境に応じて進化するからだと考え、近代生物学を作りました。

パスツール(1822生)は、アルコールの発酵現象を研究し、発酵素(化学物質)が原因という説を否定、微生物によるものであることを発見しました。またコッホ(1843生とともに感染症の原因となる微生物をつきとめました。これは近代微生物学です。

とまあ、さまざまな科学が生まれたわけです。

思想と科学は、同時に進行し、相互に影響を与え合っているのだなと感じます。1600年代はどちらかというと思想が先行しましたが、1800年代はどちらかというと科学が先行して時代を引っ張っている印象です。

 

科学とは、どんな運動なのでしょうか。なぜかくも発展したのでしょうか。

デカルトは「方法序説」で、個別の事実を例として、一般的な法則を発見せよという方法論を述べました。彼はユークリッド幾何学のような一般性をお手本にしています。

一般的な法則が事実かどうか確かめるには、膨大な数の実験が必要です。一人が持っている時間と資金では、そのチェックは不可能ですよね。

だから知識を秘匿せず、みんなでやりましょうと呼びかけたわけです。学問の民主化とも呼べるでしょう。

大きな問いを個別の細かい問いに分割し、分業化したからこそ、各個人や各国が科学を探求することができて、科学が発展したのではないでしょうか。

専門的な教育を受けたわけではない一市民レーウェンフックがレンズを使って微生物を発見し、最も古い科学学会であるロンドン王立協会に手紙を送ったというエピソードは、それをよく示していると思います。

 

近代の後半へ 自然科学は進歩しても、人を知るのは難しい

近代の誕生時期(1500-1800年代)は、これで僕の中で整理された気がします。

ルターやデカルトは、神のこと(宗教)と学問のことを切り分け学問のことは理性で考えようと呼びかけました。理性で人間について考えた結果、ホッブズ、ロック、モンテスキュー、ルソーらは啓蒙思想にたどり着き、それが旧来の国家制度を壊し、人民が主権を持つ近代国家を作ることにつながりました。

すると伝統や宗教という総合的なものの見方は、やがて力を失っていきます。欠けた視点の代わりに、近代科学は、理性的なものの見方を人々に与えました

 

近代のものの見方は、科学がいかに見たか、という面があるのではないでしょうか。例えばホッブズの啓蒙思想がそうですよね。

伝統を打ちこわす以上、壊したままでは無秩序になってしまいます。代わりとなる人間観が必要です。その一部を科学は担った。

理性を使って世界を見るということは、まじないや宗教という霧なしにクリアに見ようとする態度です。だけど、見ようとしたからといって、見えるわけではありません

見るには技術(の進歩)がいるわけで、そんなに一辺に全てがわかるわけじゃなかったんですよね。人間については特に。

 

科学は、数学、物理、化学、生物学など自然科学を特によく進歩させました。しかし、特に人間に関することは理解することが難しかった。

社会学の父・コント(1798生)は、「精神(理性)は無力である」と考えました。人間に関する学問は、まだ未発達で、観念のみによって理解しようとする段階(形而上学)にすぎないと。これを実証的な学問(科学)にしなければならない

人に関することは、近代後半(1800-1900年代)の課題として残されました。産業革命、資本主義、世界大戦などがテーマになるでしょうか。

それぞれの国が近代化したあとに、世界全体をよりよく知るための衝突が生まれたという印象です。

 

近代が登場したことによって、「哲学」という言葉の意味も変化したと思います。

ソクラテス、プラトン、アリストテレスなど、ギリシャの哲学は当時の総合的な学問だった。ですが、現代では哲学は科学が取りこぼした領域しか扱っていないように見えます。(近代以降の哲学の人がいたら反論が聞きたい)

近代となった時点で、デカルトの時点で、総合的な学問であった哲学は方法論を手に入れて、科学へと分化したのでしょう。

僕はギリシャ哲学のような学問の総合性が好きでした。そこでは、自然のことと人文のことが分かれていないのです。

近代になると、その総合性をもたらしてくれるのは、自然科学と人文科学に分かれていきました。かつての哲学のポジションというか、総合的な知を手に入れるには、どちらも知らなければならないと思います。

いつの時代も、一般の人の知的好奇心をかきたてるのは、総合的な学問じゃないかなあ、と思います。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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