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法があるからこそ自由がある モンテスキュー「法の精神」を読む

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

モンテスキュー「法の精神」を読みました。

啓蒙思想についてきちんと知りたくて、ホッブズロックに次いで読んでいます。

この二者(とルソー)に比べると、モンテスキューは、これまでの法を知った上で新たな法の見解を示そうとしており、啓蒙的というよりは実証的・社会学的な本だと思いました。

そもそも法とは何か、人間の法は社会と関係した上で作られること、法があるからこそ自由があること、などの話が面白かったので紹介します。

 

法はそれ単体で考えるものではなく、社会との関係の上で考える

モンテスキューは、1689年・フランスに生まれました。ホッブズ・ロックから半世紀ほど後ですね。

「法の精神」には、イギリスの政体へのリスペクトがありますが、特にロックの影響によるものでしょう。

当時のフランスは、ルイ14世によって確立された絶対王政でした。モンテスキューは、専制政治に対して常に厳しく批判しています。

とはいえ、彼は貴族(男爵)であり、保守的かつ極めて中立的に法を捉えようとしていました。

 

本の書き出しは、「法とは事物の本性に由来する必然的関係のことである」です。

あらゆる存在には対応する法がある。神には神の法があり、物理には物理の、人間には人間の法がある。まずそれを区別しましょうというわけです。

そして、人間の法には、制定された法律(万民法)の以前に、自然法があり……と話を展開します。グロティウスと同様の精神が見られますね。

参考:人間の本性は、協力関係だ グロティウス「戦争と平和の法」を読む

モンテスキューがユニークなのは、法律をそれ単体で考えるのではなく、政体、自然条件、住民の生活様式・習慣などと関係づけたことです。

法が先行して決まるのではなく、政治の形式や、住民が生み出す文化的な要素に合わせて決まっていく、それが法の精神であるとしています。

法を社会との相互関係において考えるというものの見方は、ジンメルのような社会学の先駆けと見えます。僕は、モンテスキューを社会学者でもあると思いました。

参考:社会は、相互関係をもった集団だ ジンメル「社会的分化論」を読む

物事の関係性に注目していたからこそ、権力が権力を阻止する、立法権・執行権(行政権)・裁判権の三つを分ける権力分立論を展開したのだと思います。

 

法があるからこそ自由がある

「法の精神」のもう一つ重要な点は、法が保証する自由というものをわかりやすく述べたことだと思います。

アメリカは自由の国と呼ばれますが、その自由というものは、一体何なのか。

自由という言葉には、実にさまざまな意味が与えられてきた。特に、君主制や共和制に比べ、民主制の国の人は、自分の望むことをしているため自由であると思われてきました。

「自由=人民が望むことをする」モンテスキューはその見方を否定します。

だが政治的自由とは、望むことをなすことではけっしてない。国家、すなわち法の存在する社会においては、自由とは、望むべきことをなしえ、望むべきでないことをなすべくけっして強制されないことにほかならない。

独立とはなんであるか、そして自由とはなんであるかを心に入れておかねばならない。自由とは、法の許すすべてをなしうる権利である。だから、もしある市民が法の禁ずることをなしうるならば、他の市民もまったく同様にその可能性をもつであろうから、彼は自由を失う事になろう。

引用:世界の名著 (34) モンテスキュー p.441

望むべきでないことを強制されないというのは、わかりにくいかもしれませんが、例えば政治権力の乱用を意味しています。

一人にあまりに権力が集まってしまう法律では、必然的に望んでいなかった乱用を起こしてしまう。だから権力分立することによって、政治的な自由を確保しましょうというわけですね。

市民にとっての自由、特に安全であることは、刑法が良いものかどうかで決まるとも指摘していますね。刑法が、悪人に対する暴力ではなく、その罪の性質によって決まっていた方が人々は自由でしょう。

(法治国家において)自由とは、法の許すすべてをなしうる権利である

良い法律によって、人々の自由が保証されるというこの考え方は、現代にも通用しますし、大切にしたいものの見方だと思います。

いわゆる、人の支配から法の支配へということですね。

 

 

モンテスキューにおいて不満があるとすれば、インド・アジア・黒人に対する考え方でしょうか。

暑い国に住む人々は怠惰である、アジアには隷従の精神がずっと現代まで残っている、などなど。

もちろんそういう側面があるのは否定できませんが、変えうるもの・自分たちに関係のあるものとして認識していない節があります。異文化をヨーロッパ的に解釈しているに過ぎない。

この意識は、20世紀、レヴィ=ストロースあたりで解消されていますね。そういえば、モンテスキューもレヴィ=ストロースもフランス生まれなんですね。

次は、ルソー「社会契約論」を読んでみます。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

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