どうも、木村(@kimu3_slime)です。
リチャード・ブロディ「ミーム―心を操るウイルス 」を読みました。
ミームと言えば、もともとは生物学者ドーキンスが著書「利己的な遺伝子」の中で提唱した言葉です。
2017年現在、インターネット・ミームという言葉を耳にしますが、1997年に書かれた「ミーム―心を操るウイルス 」を読めば、ミームという言葉がどのように人々に捉えられているかわかると思い、読んでみました。
がっかりしたこと
正直なところ、読んでいてがっかりした!(読む意味がないとは言ってない) まずはそれを述べてみます。
この本は、「ミーム学」なるものを提唱しています。
マインド・ウイルス、そしてミーム学全体が、心の科学という分野に大きなパラダイム・シフトを起こしている。
引用:ミーム―心を操るウイルスp.14
パラダイム・シフトとは、天動説から地動説への転換のように、科学における根本的な仮説が変化することを指す言葉です。
自ら提唱する学問を、パラダイム・シフトと呼ぶのは傲慢が過ぎる。「あの発見が、ものの見方を変えた」その評価は、後世の人が与えるものではないでしょうか。
これまた腹立たしいのが、「ミーム学は革新的な科学的アイデアだ。それは最初無視され、あざけられ批判される。こうして受け入れられていくのだ」と、新しいパラダイムに対する一般論で、自説をもっともらしくみせようとしている。
ここで著者リチャード・ブロディの経歴を見ると納得しました。
そもそも、生物学・心理学の専門家ではないんですよね。1981年生まれで、マイクロソフト社に入社経験がある著述家。著書は「Getting Past OK(後悔はやめよう)」で、セミナー「Your Life’s Work(あなたのライフワーク)」を開く。
今回の本の最後の方でも、「人生の目的」について語り出し、自らの著書やセミナーにつなげようとしてきます。
本を読み終わった後に整理すると、「生き方」が彼にとってのメインのテーマで、ミームや心理学はそのために引っ張ってきた印象でした。
僕はドーキンス「利己的な遺伝子」の面白く書きながらも慎重に科学的事実を伝えるスタイルが面白かっただけに、「ミーム―心を操るウイルス 」のセールスライティング的に口がうまいだけの表現にがっかり。
つまり、「ミーム」という言葉を使った一般書に過ぎないんですよね。「ミーム学」という言葉を使えどそこに専門性はなく、小話だと思って聞いていれば面白いわけです。
心のボタンを押すミーム
さて、面白いと思った部分に触れていきましょう。ミームの定義は人それぞれですが、本書では次のようになっています。
ミームとは心の中の情報の単位であり、その複製が他の心の中にも作られるようにさまざまなできごとに影響を及ぼしていく
引用:ミーム―心を操るウイルスp.45
ポイントは「心(mind)の中にある」ということ。
と言いつつ、「チェーンメールはコンピュータと人の心に宿る」と表現していたり……人の心にあるんじゃないのかよ!
一旦、厳密さは捨てて進みましょう。
この本の新しい・面白いところは、「ミームという言葉を心理学的雑学と結びつけたところ」だと思います。
例えば、動物の脳には、「戦うこと(Fighting)、逃げること(Fleeing)、食べること(Feeding)、結婚相手を見つけること(Finding a mate)」といった性質があるそうです。
人間も進化の過程でこの性質を身につけており、だから「危険、食べ物、生殖を含んだミームは、他のミームよりも早く広がる」と言っています。
確かに、人間の感情のボタンを押す、ツボをつくテーマだと、より拡散されやすい気がしますね。
本文では、都市伝説・噂話に含まれるミームを、[]でくくって紹介しています。
一人の少年が白血病[危機]で死にかけている。彼は死ぬ前にカード集めのチャンピオン[自分を目立たせる]として記録を達成し、ギネスブックに名前をのせられたらいいな[使命]と思っている。どうか彼にカードを送り[低リスク高配当]、彼を助けてやってください[子どもを助ける]。
引用:ミーム―心を操るウイルスp.227
いかにも人の間で広がりそうなこの文章は、危機を煽り、ローリスクで使命を応援し、子どもを助けられるとうたっています。
文章の表面には出てこない、人の心を動かそうとするもの(ミーム)を、立ち止まって見抜こうとするのは大事なことだと思いました。
まあ、本の最後では「マインド・ウイルスから子供たちを治療するための教育」みたいな話になってて、マジで言ってるのか、読者がミームを理解しているかどうか試すジョークなのかわからなくなってしまいましたが。
そもそも、僕はミームを心の中にあるものと定義し、マインド・ウイルスという人間にとって悪っぽい表現をすることに納得していません。ミーム学と名乗っておきながら、学問的な基礎がほとんどない。
もちろんそういう遊びとして捉えるのも面白いので、その話は「ミーム―心を操るウイルス」を読んでください。
「ミーム」という言葉はこのように一般の人が様々な意味で雑に使うようになってしまったのを感じました。これじゃなんでもミームですよ。
これから先「ミーム」という言葉を使う人がいたら、その人にとっての「ミーム」がなんなのか、共通理解がないと言葉遊びにしかならないと思うのでした。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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