ハンナ・アーレント、ナチズムを理解しようとし続けたユダヤ人哲学者

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どうも、木村(@kimu3_slime)です。

ハンナ・アーレント解説本映画「ハンナ・アーレント」番組「100分de名著 全体主義の起源」を見ました。

彼女は1906年ドイツに生まれたユダヤ人で、哲学を学ぶも、ナチスによって強制収容所に送りこまれた経験があります。

なんとかアメリカへ亡命した彼女は、1951年に「全体主義の起源」、1963年に「エルサレムのアイヒマン- 悪の陳腐さについての報告」を著し、ナチズムを理解しようとし続けた人として知られています。

僕はもともと、世界大戦、あるいはアウシュヴィッツでの虐殺はなぜ起こってしまったのか興味があったので、アーレントの思想に触れたいと思いました。

彼女からは、私たちが生きている社会今なおが抱えている問題と、哲学者としての資質を教えてもらった気がします。

画像引用:ハンナ・アーレント – Wikipedia

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私以外に目を向けること – 人間の複数性

まずひとつテーマとしてあるのが、ナチズム(ヒトラーやアイヒマン、旧体制のドイツ)だけが悪だったわけではないということだよね。

人って、何か悪い出来事があったときに、悪者探しをしてその”せい”にすることで、問題と自分との関係を切って考えがちです。そうすれば、自分には何の責任もなかった、って言えますからね。

 

そんなものの考え方ではいけない。アーレントは、「(人間の)複数性」という概念を核として提唱します。

彼女によると、ナチズムに代表される全体主義とは、複数性が失われた状態なのです。

どういうことか。複数性のない状態とは、人間に個性のない状態のことです。人間は誰もが同じで代わりの効く存在であり、100人いれば100人同じことをする。そういう状態では、1万の人がいようが動物がいるのと同じなのです。

これはいわゆる大衆社会と呼ばれる状態ですね。職業集団や地域的な人のつながりが減って、宗教的な力も弱まった時代のことです。これは現代の日本にも通じますよね。

参考:ハンナ・アーレント、排除なき複数性のための政治哲学 – 山本圭

ナショナリズムを起源とした反ユダヤ主義、またアフリカとの接触を通して培われた白人人種主義から、ドイツには多数性の欠けた状態が生まれました。

アウシュヴィッツにおいて機械的な大量殺戮が行われたのは、ユダヤ人を自らと同じ人として見ない状態だったから可能だったのです。

(官僚アイヒマンは「一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」という言葉を残しています。)

 

ナチズムを遡ると、国民国家、近代技術ベースの大衆社会が非常に未成熟だなと改めて思いました。ナチズムの台頭のような現象は、日本でも軍国主義が起こったように、いかなる国民国家でも今起こりうるものだと。

ホッブズロックモンテスキュールソーらによって国民主権の思想はできあがったかもしれません。しかし、その理想が良い形で実現されたかというと、微妙と言わざるを得ません

ロシアの社会主義はインテリ社会主義と呼ばれることがあるそうですが、他の国も十分にインテリ民主主義なのではないでしょうか。

 

またアーレントの主張で大事なものは、「普通の人間が(ユダヤ人大量虐殺のような)とんでもない悪事を生み出しうる」というものです。

この発想は、ナチスのエリート官僚アイヒマンのイスラエルにおける裁判(アイヒマン裁判)を彼女が見て得たものです。

アイヒマンは、典型的な役人、つまり普通の人でした。彼の主張には官僚主義があったのです。自分はユダヤ人を輸送しただけであって、その先で何があったかは関係がないと主張しました。彼は反ユダヤ主義者ではなく、あくまで法を遵守していただけだ、というのです。

つまりは法的に彼は悪人であったわけではありません。とはいえ、そのもたらした結果を考慮し、絞首刑となりました。

アーレントは、アイヒマンは異常で残忍な人間ではなく、どこにでもいる普通の人間だと考えました。行為の結果について自ら考えることなく、ただ事務的に仕事を行った。これを彼女は「悪の凡庸さ」と形容します。

しかし、この彼女の主張は同胞であるユダヤ人には受け入れられませんでした。「ナチの肩を持つのか」「ユダヤ人に対する愛はないのか」となじられ、ユダヤ人の友人すら失ったそうです。

考えないことこそが、非人間的な殺戮(最大の悪)を生み出す悪事は悪意を持つ人によって生み出されるとは限らない、これはまた挑戦的な物言いですが、僕は真実だと思います。

現代のニュースでも、大量殺人事件・テロの犯人は性格異常者ではないかと考えられることがありますが、僕はその見方に懐疑的です。

非人間的な人間が犯罪を犯したと考えられたら、どんなに楽でしょうか。それは思考放棄だと思います。

仮に非人間的な事件が起きたとしても、僕はそれを人間的なもの(人間の性)として理由づけるために考えるでしょう。

誰かを責めても世界はよくなりません。僕はより世界がより良くなることを望んでいます。

参考:「愛」をベースにしたメディア運営をします

 

哲学者の資質

アーレントの生き方を見て、「哲学者ってなんだろう?」と改めて考えました。

僕は近代以降、科学が登場して以降の哲学が、科学が取りこぼした領域しか扱っていないように見えています

とはいえ、アーレントを哲学者だと思ったのです。なぜか。

 

彼女は、思想を著書の中で書くだけなく、それを人生において実践する人です。たとえ友人を失うことになっても、考えたことを文章にして発表しました。

哲学者はその思想を実践している人でなければならない。これは中島義道さんもそう言ってるし、ショウペンハウエルアドラーもそうだと思う。遡れば、死刑になったとしても思想を曲げなかったソクラテスに顕れていたものといえるでしょう。

哲学者は、問題を非人間的な問題へと分割しません(科学は基本的に問題を分割して解く)。今目の前で起こっている出来事を、常に自分と関係させた上で理解しようと考え続けます

「この問題は自分の専門外だ」と放棄せず、ステレオタイプや他人の判断に乗っからないで自分の答えを出しています。

考えた先に得たものがたとえ新しい考えでなかったとしても、哲学者はそれを自分で考えたことに意味を見出します。これは、新しい結果が出なければ意味がないと考えるアカデミズムとの違いですね。

 

以上を踏まえると、哲学者は理想主義的です。科学的に解けない問題に首突っ込みすぎと言えるでしょう。科学者から見れば満足できない回答の方法ですが、それでも考えて回答を出そうとするのが哲学者だと思います(これは典型的な科学者には嫌われるアプローチ)

また、哲学者は自らの善悪、真偽にこだわり、考え続けます。アーレントもそうですが、他の人がどう考えているかは関係がないのです。議論はすれど同調はしない。だから、考える力や理解力のない大多数の人には、嫌われるのも当然かなと思います。僕個人としては好きなタイプですが(笑)。

特にアーレントは、「悪の凡庸性」という言葉で、人々に善悪の問題を投げかけてしまっているんですよね。僕はこれをあまり良い手だとは思いません。倫理にまつわることは非常にセンシティブで、いきなり核心に触れてしまったら伝わることも伝わらないのです。

だからと言って語ることををやめてしまったら、何も人々に理解されずに終わります。炎上してでも問題を投げかけた哲学者・アーレントは、素晴らしいと思います。

 

彼女は、ユダヤ人の友人を個人として好きでしたが、ユダヤ人という集団を認めたことはありませんでした。真剣に考えることは、常に一人で行われるので、対個人ベースの関係性が築かれていきます。

僕もまた個人ベースの関係性が好きですし、何でも考えられる人と付き合っていきたいと思っています。が、集団によって自らを律するタイプの考え方のこともまた考えていかなくてはならないと思いました。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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